研究レポート

横浜エクセレンスを中心としたプロバスケットボールクラブの地域価値創出に関する比較研究

― 横浜ビー・コルセアーズ、京都ハンナリーズとの比較から見る地域活動・経営基盤・産学連携の差異 ―

本レポートは著者個人の研究レポートであり、当機構の公式見解ではありません。査読は経ていません。

当機構は2026-27シーズンから横浜エクセレンスのパートナー(協賛)となる予定です(本レポート掲載時点で契約手続中)。また、2025-26シーズンまで京都ハンナリーズのパートナー(協賛企業)でした。

1.はじめに―「大きいクラブ」と「地域に価値を生むクラブ」は同義か

B.LEAGUEは2026-27シーズンから「B.革新」と呼ばれる新制度へ移行し、B.LEAGUE PREMIER、B.LEAGUE ONE、B.LEAGUE NEXTの三層構造となった。新制度では競技成績だけでなく、平均入場者数、売上高、アリーナ要件などクラブ経営の持続可能性が重視される。この変化によって、プロバスケットボールクラブは従来以上に「試合に勝つ組織」であると同時に、「地域に人を集め、企業・行政・教育機関を結び、地域課題の解決に関与する事業体」であることを求められている。

本稿は、その転換期にある横浜エクセレンスを主たる研究対象とし、同じ横浜市をホームタウンとしながら既にB.PREMIERに参入している横浜ビー・コルセアーズ、さらに京都府全26市町村をホームタウン化し広域的な地域戦略を進める京都ハンナリーズを比較する。比較の目的は、単純な売上高や観客数の優劣を示すことではない。むしろ、経営規模の異なる三クラブが、それぞれどのように地域社会との関係を形成し、大学・学校・行政・企業を巻き込みながら「地域に存在する意味」を作っているかを明らかにすることである。

特に本稿では、地域活動と産学連携を厚く扱う。プロスポーツの社会的価値は、チケット収入やスポンサー収入だけでは把握できないからである。子どもの運動機会、キャリア教育、環境活動、地域コミュニティ形成、大学生の実践教育、スポーツ科学の活用、地域企業との共創など、クラブが生み出す価値には市場価格が付かないものも多い。本稿ではこれらを「非財務的地域価値」と位置付け、経営基盤との関係を考察する。

2.三クラブの位置付けと経営基盤

2-1.横浜エクセレンス―成長途上にあるB.ONEクラブ

横浜エクセレンスは、東京を拠点としていた時期を経て2021年に横浜市へホームタウンを移し、横浜武道館を中心に活動してきた。2026-27シーズンはB.LEAGUE ONEに参入している。B.LEAGUEが公表した2024-25シーズンのデータでは、平均入場者数1,879人、2024年度売上高4.9億円であり、横浜ビー・コルセアーズや京都ハンナリーズと比べると経営規模はまだ小さい(B.LEAGUE, 2025a)。一方、2025-26シーズンには平均入場者数2,211人まで伸び、横浜BUNTAI開催ではクラブ史上最多4,485人を記録した。クラブは年間ホーム入場者9万人を目標とする「90,000 GREEN WAVE PROJECT」を掲げ、B.PREMIER参入を明確な次の成長目標としている(横浜エクセレンス, 2026a)。

この段階のクラブにとって重要なのは、限られた経営資源をどこへ投じるかである。大型アリーナ興行、選手人件費、広告宣伝に資金を集中すれば短期的な集客増を狙えるが、地域との関係形成には継続的な人的コストが必要となる。横浜エクセレンスの特徴は、規模が小さいにもかかわらず、後述するEX Community Projectや大学連携を経営成長と並行して進めている点にある。

2-2.横浜ビー・コルセアーズ―20億円規模の都市型クラブ

横浜ビー・コルセアーズは同じ横浜市をホームタウンとするが、事業規模は横浜エクセレンスより大きい。2024年度の売上高は20.2億円、平均入場者数は4,211人でB.PREMIER基準を満たしていた(B.LEAGUE, 2025a)。さらに2026年6月期には売上高21億7,900万円となった一方、費用24億5,300万円、最終損失2億7,000万円を計上した。横浜アリーナでクラブ史上最多12,699人を集めた大型興行や、選手人件費の増加が費用を押し上げたとクラブは説明している(横浜ビー・コルセアーズ, 2026a)。

この数字は、売上規模が大きいことと経営の安定が必ずしも同義ではないことを示す。B.PREMIERでは競技力、観客体験、アリーナ演出への投資競争が激しくなるため、売上増と同時に費用も増える。横浜ビー・コルセアーズは2026-27に売上23億円以上、平均来場者4,500人以上を目標としているが、地域活動やアカデミー、大学連携を維持しながら投資効率を高めることが課題となる。

2-3.京都ハンナリーズ―広域化と大型投資を進めるクラブ

京都ハンナリーズは2024-25シーズンの売上高14.8億円を計上し、2026年度には18億円到達を見込むまで事業規模を拡大している(京都ハンナリーズ, 2025a; 2026a)。2028年には約8,900人規模の京都アリーナ開業を控え、専用練習場整備、ファンベース倍増、チーム投資を進めている。2025-26シーズンからは京都府下全26市町村をホームタウンとし、「京都市のクラブ」から「京都府全体のクラブ」へと地域戦略を拡張した(京都ハンナリーズ, 2025b)。

したがって三クラブは、横浜エクセレンスが「成長途上の地域密着型」、横浜ビー・コルセアーズが「大都市圏の大規模興行・アカデミー型」、京都ハンナリーズが「府域ネットワーク・大型投資型」と整理できる。ただし、この類型は優劣ではなく、地域価値を生み出す経路の違いを示すものである。

項目 横浜エクセレンス 横浜ビー・コルセアーズ 京都ハンナリーズ
2024年度売上高 4.9億円 20.2億円 14.8億円
2024-25平均入場者 1,879人 4,211人 4,000人超の水準を継続
2026-27区分 B.LEAGUE ONE B.LEAGUE PREMIER B.LEAGUE PREMIER
地域戦略の特徴 中区・関内を核に横浜市内へ深掘り 横浜市内で広範な教育・アカデミー活動 京都府全26市町村へ広域化
産学連携の特徴 関東学院大・桐蔭横浜大との実践型連携 國學院大・桐蔭横浜大との制度型連携 京都光華・京都先端科学大等との課題解決型連携

3.横浜エクセレンスの地域活動―規模ではなく「接触密度」を高める

3-1.EX Community Projectという地域活動の体系化

横浜エクセレンスは地域活動を「EX Community Project」として体系化し、教育、環境、防災、多文化共生など複数領域を扱っている。これは、選手が学校を訪問してバスケットボール教室を行うだけの従来型ホームタウン活動から一歩進んだ構造である。2026年5月だけでも1,000人を超える子どもにバスケットボールやスポーツ体験を提供し、南吉田小学校108人への教室、地域イベントでのシュート体験、清掃活動などを実施した(横浜エクセレンス, 2026b)。

重要なのは、活動の対象が「既存ファン」に限定されないことである。学校、商店街、区役所、児童養護施設、地域イベントなど、バスケットボール観戦経験がない住民と接触する導線が多数設けられている。プロスポーツクラブにとって地域活動は社会貢献であると同時に、将来のファン形成でもある。しかし短期的なチケット販売を目的にしすぎると、地域活動は営業施策へ矮小化される。横浜エクセレンスの事例では、清掃、防災、キャリア教育など「試合を見なくても参加できる活動」が一定程度存在し、この点に公共性が認められる。

3-2.南吉田小学校「みらいキャリア」―クラブを教材に変える

横浜エクセレンスの地域活動で特に注目すべきなのが、南吉田小学校との「みらいキャリア」である。児童はクラブとのコラボグッズについて、デザインを考えるだけでなく、商品の魅力を伝える販売POPを作り、実際に接客し、学校内の販売会で商品を販売した。クラブによれば商品はほぼ完売した(横浜エクセレンス, 2026c)。

この活動の意義は、プロスポーツクラブを「見る対象」から「学ぶ教材」へ変換したことにある。商品企画にはデザイン、価格、顧客理解が必要であり、販促には言語化とコミュニケーションが必要になる。接客では他者との関係構築を経験する。つまり一つのプロスポーツクラブを題材として、社会科、総合学習、キャリア教育、マーケティング教育を横断できる。選手による夢授業とは異なり、児童自身が価値を作り、販売結果まで経験する点に教育的な厚みがある。

また、このモデルはクラブ側にも利益をもたらす。児童、保護者、教員がクラブに接触し、地域の学校がクラブの活動拠点になるためである。地域貢献とマーケティングが対立するのではなく、教育価値を中心に据えることで双方の利益を成立させる「共創型」の地域活動と評価できる。

3-3.清掃活動と観戦を結ぶLTO

環境分野では、横浜エクセレンスは各ホームゲーム節で「LEADS TO THE OCEAN(LTO)」としてアリーナ周辺の清掃を実施している。2026年3月にはB.LEAGUE Hopeの事業と連携し、清掃活動後に参加者が同じビブスを着用したまま試合観戦する企画を実施した。児童養護施設の参加者も含まれ、クラブは体験格差の解消、地域美化、交流促進、地域愛着の醸成を目的としている(B.LEAGUE, 2026a)。

ここでは「地域貢献をした人が、そのまま観客になる」という循環が設計されている。観戦と社会貢献を別々に行うのではなく、一つの体験として接続することで、クラブへの愛着を勝敗以外の価値から形成できる。経営規模が小さいクラブにとって、広告費を大量投入して認知を獲得することは難しい。そこで地域活動自体をブランド体験にすることは合理的である。

4.横浜エクセレンスの産学連携―「協定」から「実装」へ

4-1.関東学院大学との連携

横浜エクセレンスは2023年12月、関東学院大学と連携・協力協定を締結した。背景には関東学院大学横浜・関内キャンパスの開設があり、協定以前から人間共生学部のプロジェクト科目における長期インターンシップ生の受け入れ、大学キャンパスでのパブリックビューイング、大学バスケットボール部との練習場所の相互利用などを行っていた。協定項目には教育・研究の社会連携、人材育成、まちづくり・地域活性化が明記されている(横浜エクセレンス, 2023)。

この事例で評価すべきなのは、「協定を締結したから連携を始める」のではなく、既に具体的な交流が存在し、その実績を制度化する形で協定に至ったことである。大学連携では、調印式のみがニュースとなり、その後の実態が見えにくいケースもある。横浜エクセレンスと関東学院大学の場合、学生の長期インターン、施設の相互利用、地域イベントという複数の実装が確認できるため、産学連携の実質性が比較的高い。

さらに立地上の意味も大きい。横浜武道館と関東学院大学横浜・関内キャンパスはいずれも関内エリアにあり、大学生がクラブ運営や地域活動へ参加しやすい。クラブ、大学、商店街、行政施設が近接することで、関内という地域自体を「実践教育のキャンパス」として利用できる可能性がある。

4-2.神奈川大学との連携―マーケティングPBLからクラブ運営人材育成へ

横浜エクセレンスの産学連携を評価する際、神奈川大学との協働も重要である。神奈川大学との取り組みは、包括協定の有無だけで評価するより、複数年度にわたり具体的な教育・地域活動が積み重なっている点に特徴がある。2022年には、神奈川大学のオリジナルコスメティックブランド「PROUD BLUE」を横浜武道館の横浜エクセレンスホームゲームで販売した。大学はこの取り組みを、スポーツを通じた地域活性化と、環境に配慮した商品の紹介による環境啓発を目的とする連携と位置付けている(神奈川大学, 2022)。

2023年7月には、神奈川大学みなとみらいエクステンションセンターが小学生向けバスケットボール体験講座を開催し、横浜エクセレンス所属選手と神奈川大学男子バスケットボール部が協力した。講座は選手による座学と実技で構成され、大学の運動部員も子どもたちとコートに入った(神奈川大学, 2023)。ここではプロクラブ、大学スポーツ、地域の子どもという三者が接続されており、プロスポーツを地域教育資源として利用するモデルになっている。

さらに2025年には、神奈川大学経済学部の三島ゼミ・權ゼミの学生10名を中心に、横浜エクセレンス主催試合へ神奈川大学生500人を動員するプロジェクトが始動した。学生自身が集客を課題として捉え、学内への情報発信やイベント企画を行い、ホームゲームという実際の興行をマーケティングの実践フィールドとして活用する取り組みである(神奈川大学, 2025)。これは観戦招待とは性質が異なる。学生を単なる観客として扱うのではなく、プロスポーツの集客課題を解決する主体として参加させるPBL型の産学連携だからである。

加えて2025-26シーズンには、神奈川大学の在学生が横浜エクセレンスのチームスタッフ(インターン)として契約している(横浜エクセレンス, 2026f)。これにより神奈川大学との接点は、商品・環境啓発、子ども向けスポーツ教育、学生主体のマーケティング企画にとどまらず、プロクラブの実際の運営・競技現場に学生が参画する人材育成へ広がっている。

この一連の活動は、横浜エクセレンスの産学連携が一大学に依存していないことを示す。関東学院大学とは関内という立地を生かした長期インターンや施設相互利用、神奈川大学とはマーケティングPBL・地域教育・人材育成、桐蔭横浜大学とはスポーツ科学とキャリア支援というように、大学ごとの資源と専門性に応じて連携の性格が異なる。経営規模が大きくないクラブでありながら、複数大学を異なる役割でネットワーク化できている点は、横浜エクセレンスの地域基盤を評価するうえで重要である。

4-3.桐蔭横浜大学スポーツ科学部との協定

2026年7月には桐蔭横浜大学スポーツ科学部とも連携協定を締結した。目的は、学生、アスリート、社会人に学びの場を提供し、キャリア支援を通じて地域・社会への貢献を実践することである(横浜エクセレンス, 2026d)。関東学院大学との連携が関内のまちづくりや実践教育との親和性を持つのに対し、桐蔭横浜大学スポーツ科学部との連携はスポーツ科学、アスリート支援、人材育成へ展開しやすい。

今後の課題は、協定を研究成果へ接続できるかである。例えば、観客行動分析、子どもの運動習慣、選手のコンディショニング、地域活動参加者の社会的効果、スポンサー企業の地域貢献効果などは大学との共同研究に適している。横浜エクセレンスは経営規模では横浜ビー・コルセアーズに及ばないが、クラブ規模が比較的小さいからこそ、大学研究者や学生がクラブ内部に入り込みやすく、実験的な施策を行いやすい可能性がある。これは「小ささ」を弱点ではなく産学連携上の機動力に変える発想である。

5.横浜ビー・コルセアーズとの比較―制度化された地域・教育基盤

5-1.YoHo actionと学校・行政ネットワーク

横浜ビー・コルセアーズは地域・社会貢献活動を「YoHo action」として展開し、学校・保育園訪問、地域イベント、教育、福祉、環境などを扱う。2025-26シーズンのB.LEAGUE Hope事業では、横浜市の児童の体力・運動能力が全国平均を下回るという地域課題を起点に、バスケットボール教室、試合招待、夢授業を組み合わせた「スクールリンク」を実施した(B.LEAGUE, 2026b)。

ここでの特徴は、地域活動が「横浜市の課題データ」と結び付いている点である。単に子どもを楽しませるのではなく、運動能力・健康意識という課題を設定し、学校、区役所、クラブが協働する。大規模クラブにはスタッフ、アカデミーコーチ、選手OBなど人的資源が多く、複数の学校へ継続的にプログラムを展開しやすい。横浜エクセレンスの活動が一校・一地域との接触密度を高める傾向を持つのに対し、横浜ビー・コルセアーズは既存のアカデミー事業を含めて活動を制度化・広域化しやすい。

5-2.國學院大學・桐蔭横浜大学との産学連携

横浜ビー・コルセアーズは2022年に國學院大學と協定を締結し、プロスポーツクラブのビジネスモデルや企業経営を学ぶ機会、学生インターン、学生の進路先としての受け入れ、高齢者健康教室、子どものスポーツ体験、栄養・熱中症対策、フードロスやサーキュラーエコノミー、地域住民向け市民講座などを連携項目として設定した(横浜ビー・コルセアーズ, 2022a)。同年には桐蔭横浜大学とも協定を締結し、経営教育、インターン、選手・社会人のキャリア支援、地域貢献、集客向上までを対象としている(横浜ビー・コルセアーズ, 2022b)。

横浜エクセレンスと比較すると、横浜ビー・コルセアーズの産学連携は対象領域が広く、クラブ経営、教育、健康、環境、キャリアを一つの協定の中に制度化している。これは20億円規模の事業基盤や長年の横浜での活動実績がもたらす組織的な厚みと考えられる。ただし、協定項目が多いこと自体が成果を意味するわけではない。重要なのは、実施件数、参加学生数、就職・キャリアへの接続、研究成果、地域住民への効果などを継続的に測定することである。

5-3.同じ横浜に二クラブが存在する意味

横浜市には横浜ビー・コルセアーズと横浜エクセレンスという二つのBリーグクラブが存在する。人口規模の大きな横浜では共存可能性がある一方、スポンサー、観客、メディア露出、人材をめぐる競争も起こる。しかし地域活動の観点では、二クラブが同じことを競う必要はない。横浜ビー・コルセアーズが大規模なアカデミー・教育ネットワークを形成し、横浜エクセレンスが関内・中区を核に学校や商店街と深く関係を築けば、地域内で異なる役割を担うことができる。

むしろ横浜エクセレンスにとって危険なのは、横浜ビー・コルセアーズの規模をそのまま追い、同じKPIだけで自らを評価することである。売上や入場者数はB.PREMIER参入に不可欠だが、地域における存在意義まで大規模クラブと同じ方法で作る必要はない。地域活動の密度、大学との実装力、学校との継続関係などは、小規模クラブが差別化できる領域である。

6.京都ハンナリーズとの比較―「点」ではなく府域ネットワークを作る

6-1.全26市町村ホームタウン化

京都ハンナリーズは2025-26シーズンから京都府下全26市町村をホームタウンとした。これは地域活動の空間的スケールという点で横浜の二クラブと大きく異なる。京都市という大都市だけでなく、北部・中部・南部の市町村までクラブとの接点を作ることを目指しており、マスコットによる全自治体訪問、子どもの観戦機会、学校活動などを展開している(京都ハンナリーズ, 2025b; 2025c)。

横浜エクセレンスが関内・中区を中心とした「深さ」を作りやすいのに対し、京都ハンナリーズは府域全体という「広さ」を求められる。広域化はブランド認知やスポンサー営業には有利だが、各地域との関係が表面的になる危険もある。26市町村それぞれの課題は異なるため、単一のバスケットボール教室を横展開するだけでは十分ではない。京都北部の交通・観戦アクセス、都市部の教育・環境課題、乙訓地域の新アリーナとの関係など、地域ごとに異なる施策が必要となる。

6-2.NEKONOTE PROJECTと社会課題への接続

京都ハンナリーズは地域活動をNEKONOTE PROJECTとして整理し、子どもとの交流、環境保全、社会課題解決を扱っている。2025年には京都市教育委員会が進める中学校運動部活動の地域展開実証事業に参画し、学校部活動の地域移行という全国的な教育課題にプロクラブとして関与した。また京都府立乙訓高校では、社長がスポーツ健康科学科の生徒にプロスポーツクラブ経営を講義している(京都ハンナリーズ, 2025d)。

2026年には京都市、企業、学生プロジェクトと連携し、使用済衣類の回収・アップサイクル・環境教育を組み合わせた地域循環モデルにも取り組んでいる。ここではスポーツクラブが環境・福祉・教育をつなぐ「プラットフォーム」として位置付けられている(京都ハンナリーズ, 2026b)。横浜エクセレンスのLTOも環境活動であるが、京都は行政予算や企業、学生組織を組み合わせ、地域循環の仕組み自体を作ろうとしている点で規模と制度設計が異なる。

6-3.京都光華女子大学・京都先端科学大学との産学連携

京都ハンナリーズは2024年に京都光華女子大学・短期大学部と健康・未来創造に関する包括連携協定を締結した。健康・スポーツの普及、地域課題解決、大学教育の活性化を目的とし、その後、学生がホームゲームの市場調査を行い、観客の「食サービスを充実してほしい」という声を踏まえて京野菜を使ったメニューを開発した。JA京都市が食材を提供し、実際のホームゲームで販売するという産学官・地域産業連携に発展している(京都ハンナリーズ, 2024; JA京都市, 2025)。

この事例は産学連携の評価において重要である。学生が調査し、課題を発見し、商品を開発し、地域農業団体と連携し、実際の顧客へ販売するまでが一つのプロジェクトになっているからである。横浜エクセレンスの南吉田小学校の探究学習と構造的に似ており、「スポーツ興行の現場を教育実習の場にする」という共通点がある。対象が大学生か小学生かは異なるが、クラブの事業活動そのものを学習資源へ転換している。

さらに2026年7月、京都先端科学大学と包括連携協定を締結し、学術、教育、研究、人材育成、地域社会への貢献、人材交流、施設利用、広報などを対象とした(京都先端科学大学, 2026)。京都ハンナリーズは新アリーナや専用練習場を控えており、今後はスポーツ科学、経営、データ分析、観光、地域交通、環境など多分野との連携余地が大きい。

7.三クラブの地域貢献をどう評価すべきか

7-1.活動件数では測れない

地域貢献を比較する際、「年間何回イベントを行ったか」だけでは不十分である。イベント100回でも一度きりの接触が中心なら、地域社会の変化は限定的かもしれない。一方、対象が一校でも、年間を通じて児童が商品企画、販売、振り返りまで経験すれば教育効果は大きい可能性がある。したがって、①到達人数、②継続期間、③参加者の主体性、④地域課題との関連性、⑤他組織との協働、⑥成果測定、という複数の指標が必要である。

この観点では横浜エクセレンスは「接触密度」と「参加型」に強みがある。南吉田小学校の活動では児童が受け手ではなく作り手になっている。LTOでもブースター自身が清掃活動へ参加する。関東学院大学では学生がインターンとしてクラブ内部へ入り、神奈川大学では学生がホームゲーム500人動員という実際の集客課題に取り組み、さらに在学生がチームスタッフのインターンとしてクラブ運営へ参画している。クラブ規模は小さくても、地域住民を活動主体に変える設計が目立つ。

横浜ビー・コルセアーズは「制度化」と「人的資源」が強みである。アカデミー事業を持ち、学校訪問や運動指導を継続しやすい。京都ハンナリーズは「広域ネットワーク」と「多主体連携」が強みで、26市町村、大学、JA、行政、企業などを結びつけている。それぞれ地域価値の作り方が異なるため、単一ランキングで比較することは適切ではない。

7-2.社会的インパクト測定の必要性

三クラブに共通する次の課題は、活動の「実施報告」から「社会的インパクト測定」へ進むことである。例えばバスケットボール教室に100人が参加したという情報はアウトプットであり、子どもの運動習慣が改善したか、自己効力感が高まったか、地域への愛着が強まったかというアウトカムとは異なる。大学との連携は、この測定を高度化するために活用できる。

横浜エクセレンスと桐蔭横浜大学スポーツ科学部であれば、運動・健康効果や観戦体験の心理効果を研究できる。関東学院大学とはまちづくり、地域コミュニティ、スポーツビジネスを研究できる。神奈川大学とは、学生主体のスポーツマーケティング、若年層の観戦行動、環境啓発、プロクラブでの実践的人材育成を研究・教育テーマとして発展させることができる。横浜ビー・コルセアーズも國學院大學・桐蔭横浜大学との協定を通じ、教育・健康・環境の成果測定を行える。京都では大学の多さという都市特性を生かし、地域交通、観光、環境、食、健康まで対象を広げられる。

8.経営基盤と地域活動は対立するのか

プロクラブに地域貢献を求める際、経営基盤との関係を無視することはできない。スタッフが学校へ出向くにも人件費が必要であり、無料招待にも座席の機会費用がある。地域活動を継続するには、スポンサーや行政との協働、専任人材、予算が必要となる。したがって売上成長は地域活動と対立するものではなく、むしろ継続性を支える条件である。

しかし、経営規模が拡大すれば自動的に地域貢献が増えるわけでもない。大型興行や選手人件費への投資が増えれば、売上20億円を超えても赤字になることは横浜ビー・コルセアーズの2026年6月期決算が示している。京都ハンナリーズも新アリーナ、専用練習場、チーム強化へ大規模投資を進める。成長局面では、地域活動が「直接売上を生まないコスト」として扱われる危険がある。

横浜エクセレンスにとって、この点は今後特に重要である。B.PREMIERを目指して売上4.9億円から12億円以上へ成長する過程では、スポンサー単価、チケット単価、アリーナ投資、スタッフ数を大きく変える必要がある。その際、現在の学校や商店街との近い関係を維持できるかが問われる。規模拡大の成功によって、逆に現在の強みである「顔の見える地域密着」を失う可能性があるからである。

9.横浜エクセレンスが二クラブから学べること

9-1.横浜ビー・コルセアーズから―活動を制度にする

横浜ビー・コルセアーズから学べるのは、地域活動を担当者個人の努力に依存させず、YoHo action、アカデミー、大学協定などの制度として持続させることである。横浜エクセレンスもEX Community Projectを体系化しているが、B.PREMIERを目指すなら、活動ごとのKPI、専任人材、大学による効果測定、スポンサーとの共同事業化まで進める必要がある。

9-2.京都ハンナリーズから―クラブを地域ネットワークの結節点にする

京都ハンナリーズから学べるのは、クラブ単独で社会課題を解決しようとせず、行政、大学、企業、JA、学生団体などを結びつけることである。横浜には多数の大学、企業、NPO、国際コミュニティが存在する。特に中区は観光、多文化共生、防災、環境、商店街活性化などテーマが豊富であり、横浜エクセレンスが地域の「接続装置」となれる余地が大きい。

9-3.横浜エクセレンス独自の強み―小ささを実験性へ変える

一方、横浜エクセレンスは二クラブを模倣するだけでなく、自らの規模を強みに変えるべきである。組織が比較的小さいクラブは意思決定が速く、学校や大学と実験的なプロジェクトを始めやすい。南吉田小学校との商品開発、関東学院大学の長期インターン、神奈川大学の学生500人動員プロジェクトとチームスタッフ・インターン、LTOと観戦の一体化はその例である。大規模クラブより少ない予算でも、地域住民一人当たりの関与の深さを高めることはできる。

今後は「年間ホーム入場者9万人」という量的目標と並び、「年間何人の子どもが継続型教育プログラムを修了したか」「大学生が何時間クラブの実務に参加したか」「地域活動参加者の再参加率」「地域課題に対する行動変容」など、地域価値のKPIを設定することが望ましい。そうすればB.PREMIER昇格を、単なる売上・観客数の成長ではなく、地域価値を拡張するための経営基盤強化として説明できる。

10.産学連携をさらに深化させるための提案

第一に、横浜エクセレンス、関東学院大学、神奈川大学、桐蔭横浜大学がそれぞれ二者間で連携するだけでなく、複数大学・行政・企業を含む「横浜スポーツ地域共創ラボ」のような常設枠組みを構築することが考えられる。関東学院大学がまちづくり・社会連携、神奈川大学がマーケティング・PBL・人材育成、桐蔭横浜大学がスポーツ科学を担い、クラブが実証フィールドを提供すれば、研究・教育と地域活動を接続できる。

第二に、学生インターンを単なる運営補助ではなく、単位認定を伴うPBL(Project Based Learning)へ発展させることである。学生が集客、スポンサー提案、地域活動、データ分析などの課題を担当し、シーズン終了時に成果をクラブへ提案する。クラブは若者の発想と労働力を一方的に利用するのではなく、実務教育とキャリア形成を提供する必要がある。

第三に、地域活動の社会的インパクトを大学と共同で定量化する。例えば南吉田小学校のプログラムについて、参加前後のキャリア意識、自己効力感、地域愛着、スポーツ関心を測定する。LTOではごみ回収量だけでなく、環境意識や継続参加率を追う。これによりスポンサー企業に対しても「ロゴ掲出」ではなく「地域課題への投資成果」を提示できる。これは将来的なスポンサー収入の質的向上にもつながる。

第四に、多文化共生を横浜エクセレンス独自の重点領域とすることが考えられる。2026年8月にはアメリカ山ガーデンアカデミーと横浜山手中華学校の児童132人を対象とした合同バスケットボール教室を実施している(横浜エクセレンス, 2026e)。国際都市・横浜、特に中区という立地を考えれば、バスケットボールを言語や文化を越えた交流手段として活用することは、他クラブとの差別化にも地域課題解決にもつながる。

11.総合比較―三クラブは何を地域に残しているか

三クラブを比較すると、経営規模では横浜ビー・コルセアーズ、京都ハンナリーズ、横浜エクセレンスの順となる。しかし、地域価値はその順番で単純に決まらない。横浜エクセレンスは小規模だからこそ学校、大学、商店街、区役所との距離が近く、住民参加型の活動を設計している。横浜ビー・コルセアーズは20億円を超える事業規模とアカデミー基盤を使い、教育・健康・環境活動を制度的に展開できる。京都ハンナリーズは府下26市町村という広域ネットワークと、大学・行政・企業をつなぐ共創型活動を進めている。

産学連携でも違いが明確である。横浜エクセレンスは関東学院大学との長期インターンや施設相互利用、神奈川大学との学生主体の集客PBL・地域教育・クラブ運営インターン、桐蔭横浜大学とのスポーツ科学連携などを組み合わせる「複数大学・現場実装型」、横浜ビー・コルセアーズは複数の教育・健康・キャリア領域を協定に組み込む「制度型」、京都ハンナリーズは市場調査から商品開発、地産地消、環境循環など地域産業・行政まで巻き込む「地域課題共創型」と整理できる。もちろん各クラブに他の要素も存在するが、比較上の特徴として有効である。

この比較から、横浜エクセレンスが目指すべき成長は、横浜ビー・コルセアーズや京都ハンナリーズと同じ規模になることだけではないと考えられる。B.PREMIER参入には売上と入場者の拡大が必要だが、クラブの社会的存在価値は「地域の人がクラブを通じて何を経験できるか」で決まる。地域の子どもが商品を作り、大学生がプロスポーツ経営を学び、住民が清掃活動に参加し、多文化の子どもたちが一緒にバスケットボールをする。この蓄積が、試合の勝敗を越えたクラブ資産になる。

12.結論

横浜エクセレンスは、売上高や観客数だけを見れば、横浜ビー・コルセアーズや京都ハンナリーズより小さい。しかし本稿の比較からは、地域活動と産学連携において、規模に比例しない独自の価値を形成していることが確認できた。特に南吉田小学校との探究学習、LTOによる清掃と観戦の統合、関東学院大学との長期インターン・施設相互利用、神奈川大学とのマーケティングPBL・地域教育・クラブ運営インターン、桐蔭横浜大学スポーツ科学部との連携は、クラブを地域の教育・社会資源として機能させる試みである。

横浜ビー・コルセアーズとの比較からは、事業規模と人的資源を背景に地域活動を制度化する重要性が見える。京都ハンナリーズとの比較からは、行政、大学、企業、地域産業をつなぐネットワーク型の地域貢献の可能性が見える。一方で横浜エクセレンスには、関内・中区を中心とした距離の近さと、小規模組織ならではの機動性がある。

今後、横浜エクセレンスがB.PREMIERを目指して売上・観客数を拡大する過程では、この「近さ」を失わないことが重要である。経営基盤の拡大は目的ではなく、地域に提供できる価値を持続・拡張するための手段と位置付けるべきである。年間9万人の観客を集めるクラブになることと、一人の小学生がクラブとの活動を通じて自分の将来を考えることは、別々の目標ではない。地域との深い関係がファンと支援者を育て、その経営基盤がさらに地域活動を可能にする循環を作れるかどうかが、横浜エクセレンスの次の成長段階を左右すると考える。

参考文献

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注:売上高・平均入場者数は、比較可能性を確保するため主としてB.LEAGUEが公表した2024年度・2024-25シーズンの数値を用いた。2025-26以降の数値は各クラブの公式発表を補足的に使用している。

引用表記

片岡亮(2026)「横浜エクセレンスを中心としたプロバスケットボールクラブの地域価値創出に関する比較研究―横浜ビー・コルセアーズ、京都ハンナリーズとの比較から見る地域活動・経営基盤・産学連携の差異―」一般社団法人京阪マーケティング・リサーチ機構 研究レポート.https://www.keihan.or.jp/research/reports/yokohama-ex-comparative-study/

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