研究レポート
Bリーグにおける京都ハンナリーズの活躍と地域貢献が地元にもたらす影響(2023-24シーズン)
― 「勝敗」を超えて地域に根を張るクラブへ ―
本レポートは査読を経ていません。記載内容は著者の見解であり、言及した団体・企業の見解を示すものではありません。
1.はじめに
2023-24シーズンの京都ハンナリーズを振り返る際、コート上の成績だけでクラブの価値を判断することは適切ではない。このシーズンの京都ハンナリーズは、競技面では苦しい戦いを経験する一方、観客動員や企業との連携、学校への支援など、地域に根差したプロスポーツクラブとして大きな変化を遂げたからである。
京都ハンナリーズは京都市をホームタウンとするBリーグのプロバスケットボールクラブである。しかし、京都には京都サンガF.C.をはじめとするプロスポーツが存在し、さらに寺社仏閣や伝統文化、大学、観光など非常に多くの文化資源が存在する。その京都において、プロバスケットボールクラブが市民にとってどのような存在になるのか。その問いに対する一つの答えを示し始めたのが2023-24シーズンだったと考えられる。
2.17勝43敗という成績と、その意味
2023-24シーズン、京都ハンナリーズはB1リーグ60試合を戦い、17勝43敗という成績だった。平均得点は77.3点、平均失点は84.6点であり、数字だけを見れば厳しいシーズンだったことは明らかである(京都ハンナリーズ, 2024a)。クラブ自身もシーズン終了時、前年より勝利数を減らしたことについて満足できる結果ではなかったと総括している(京都ハンナリーズ, 2024b)。
しかし、この17勝43敗という数字とは別のところで、クラブは大きな成果を上げていた。象徴的なのが観客動員である。2022-23シーズンに約2,700人だった平均来場者数は、2023-24シーズンには4,345人まで増加した。クラブ発表では年間来場者は約13万人に達し、B.PREMIER参入審査を意識した平均4,000人という目標を突破した(京都ハンナリーズ, 2024b)。つまり2023-24シーズンは、競技面では苦戦しながらも、クラブを応援する地域社会の規模そのものは大きく拡大したシーズンだったのである。
3.プロスポーツが生み出す「地域の共通体験」
プロスポーツクラブが地域にもたらす重要な価値の一つに、市民が同じ体験を共有できることがある。バスケットボールの試合では、年齢、職業、居住地域などが異なる人々が同じアリーナに集まり、同じチームを応援する。京都ハンナリーズのホームゲームの場合、「京都」という共通項によって数千人の観客が結び付く。
平均4,345人という来場規模は、クラブ公表値で年間約13万人に相当する(京都ハンナリーズ, 2024b)。そこで生まれるのはチケット収入だけではない。試合前後の飲食、交通機関の利用、グッズ購入、周辺店舗への立ち寄りなどの消費が発生する。また、SNSへの投稿や家族・友人との会話を通じて「京都ハンナリーズ」という存在が地域社会に広がっていく。したがってホームゲームは、単なるスポーツ興行ではなく、人と人との交流や地域消費を発生させる場として考えることができる。
4.企業を巻き込んだ地域貢献
2023-24シーズンに注目すべきもう一つの取り組みが、パートナー企業と連携した学校へのバスケットボール寄贈である。京都ハンナリーズは2023年11月、学校のスポーツ環境向上を目的として、パートナー企業と共同で京都府内の学校へバスケットボールなどを寄贈するプロジェクトを開始した。第一弾では11社が参加し、合計291球のバスケットボールが京都市教育委員会へ寄贈された(京都ハンナリーズ, 2023)。
この活動が興味深いのは、クラブ自身が物品を寄付するだけではなく、「クラブ・企業・行政・学校」という仕組みを作ったことである。プロスポーツクラブには多くの企業がスポンサーとして関わっている。京都ハンナリーズは、その企業との関係を広告だけでなく地域貢献にも接続した。つまりクラブが企業と地域社会を結ぶ仲介役となったのである。
5.子どもたちへの影響
学校へのボール寄贈には、さらに長期的な意味がある。プロ選手の試合を観戦した子どもが学校でバスケットボールに触れ、自分でも競技を始める。その子どもが再びハンナリーズの試合を観戦する。こうした循環が生まれれば、クラブと地域との関係は一時的なものではなくなる。
スポーツには「見る」「する」「支える」という複数の関わり方がある。京都ハンナリーズが試合を開催するだけでなく、子どもたちが実際にバスケットボールをする環境を整えることは、この三つをつなげる活動と考えられる。さらに、地元のアリーナで実際に見ることのできるプロ選手の存在は、子どもにとってスポーツを身近なものにする。
6.地域企業との関係拡大
クラブを支えるパートナー企業も増加した。2023-24シーズン終了時、京都ハンナリーズはパートナー企業が前シーズンの255社から310社へ増加したと発表している(京都ハンナリーズ, 2024b)。その後公表された決算概要でも、売上高が前年度の約10.58億円から約14.06億円へ拡大し、パートナー企業の増加が主要因の一つとして説明されている(京都ハンナリーズ, 2024c)。
プロスポーツクラブと企業との関係は広告だけではない。ホームゲームでは企業同士の交流が生まれ、地域貢献活動では複数企業が共同して社会的課題に取り組むことができる。京都には世界的企業が存在する一方、中小企業や伝統産業も数多い。京都ハンナリーズがこうした企業をスポーツという共通テーマで結び付けることができれば、クラブは地域の新しい企業ネットワークとしての役割を担う可能性がある。
7.「弱いチームなのに観客が増えた」という重要性
2023-24シーズンで特に興味深いのは、チームの勝利数が前年より減少したにもかかわらず、観客数が大幅に増加したことである。勝利だけが観戦理由であれば、成績が悪化すれば観客も減少すると考えられる。しかし実際には逆の現象が起こった。
そこから、観客が京都ハンナリーズに求めるものが「勝利」だけではなくなりつつあったことが読み取れる。家族で楽しめる場所、友人と集まる場所、京都を応援する場所、非日常的な興奮を体験する場所など、ホームゲームそのものが地域の娯楽として価値を持ち始めた可能性がある。これは競技成績に左右されにくいクラブ基盤を形成する上でも重要な変化である。
8.まとめ
2023-24シーズンの京都ハンナリーズは17勝43敗だった。競技成績だけを見れば成功したシーズンとは言いにくい。しかし地域との関係という視点から見ると、まったく異なる姿が見えてくる。平均観客数は4,345人に達し、パートナー企業は255社から310社へ拡大した。また、企業と共同した学校へのバスケットボール寄贈など、地域社会に直接還元する活動も本格化した。
ここから分かるのは、プロスポーツクラブの価値は勝敗だけでは測れないということである。試合を通じて数千人を集めること、企業を地域貢献へ巻き込むこと、子どもたちがスポーツに触れる機会を増やすこと、そして「京都のチーム」という共通意識を市民の間に作ること。2023-24シーズンは、京都ハンナリーズが単なる「京都にあるプロバスケットボールチーム」から、「京都という地域を構成する存在」へと変化していく重要な一年だったと言える。
参考文献
京都ハンナリーズ(2023)「パートナー企業様との共同企画 ボール寄贈プロジェクトをスタート」2023年11月24日。https://hannaryz.jp/news/detail/id=20284(最終閲覧日:2026年10月1日)
京都ハンナリーズ(2024a)「成績」京都ハンナリーズ公式サイト。https://hannaryz.jp/stats/(最終閲覧日:2026年10月1日)
京都ハンナリーズ(2024b)「2023-24シーズン終了のご挨拶」2024年5月6日。https://hannaryz.jp/news/detail/id=20638(最終閲覧日:2026年10月1日)
京都ハンナリーズ(2024c)「B.LEAGUE 2023-24シーズン(2023年度)クラブ決算概要発表のお知らせ」2024年11月19日。https://hannaryz.jp/news/detail/id=21104(最終閲覧日:2026年10月1日)
