研究レポート

Bリーグの成長と「推し活」文化の形成

― FIBAワールドカップ2023後の認知拡大と京都ハンナリーズを事例とした考察 ―

本レポートは査読を経ていません。記載内容は著者の見解であり、言及した団体・企業の見解を示すものではありません。

1.はじめに――日本のバスケットボールを取り巻く環境の変化

日本におけるプロスポーツの中心は、長らくプロ野球とサッカーであった。バスケットボールにも競技人口や学校体育を通じた広い接点は存在していたが、国内トップリーグの社会的認知や日常的なメディア露出という点では、野球やサッカーに及ばない時期が長かった。しかし、この状況は2020年代に入り大きく変化した。特に転換点として位置付けられるのが、2023年8月から9月に開催されたFIBAバスケットボールワールドカップ2023である。日本代表は沖縄でフィンランド代表などに勝利し、最終的にアジア最上位となって2024年パリオリンピックの出場権を獲得した。FIBAによれば、日本対カーボベルデ戦は日本国内で当該年度最高視聴率の放送となり、大会そのものも世界規模で過去最大級のデジタル接触を記録した(FIBA, 2023a; 2023b)。

本稿では、このワールドカップを契機としたバスケットボールの認知拡大が、B.LEAGUEの観客増加やファン層の変化にどのようにつながったのかを検討する。さらに、近年のファン行動を理解するうえで重要な「推し活」に注目する。ここでいう推し活とは、特定の選手やクラブに対して強い好意や愛着を持ち、観戦、グッズ購入、SNS閲覧・投稿、遠征などを通じて継続的に応援する行動を指す。本稿の中心的な仮説は、Bリーグではクラブへの帰属意識に加えて選手個人への愛着が強く形成されやすく、選手の移籍に伴ってファンの関心もクラブの境界を越えて移動し得るというものである。

ただし、この仮説を「バスケットボールのファンはチームを応援しない」と単純化することは適切ではない。先行研究では、Bリーグ観戦者の将来の観戦・消費意向にチームへの同一化が重要な影響を与えることが示されている(スポーツ産業学研究, 2024)。したがって実態は、チームへの愛着と選手個人への愛着が競合するというより、両者が重なり合いながらファン行動を形成していると考えるべきである。本稿では京都ハンナリーズを具体的事例として、代表戦による全国的な認知拡大、Bリーグへの送客、選手個人を入口としたファン形成、そして地域クラブがその熱量をどのように地域への愛着へ転換できるのかを考察する。

2.転換点としてのFIBAバスケットボールワールドカップ2023

まず確認すべきなのは、認知拡大の時期である。「2022年のワールドカップ」が契機だったという理解には年次の修正が必要であり、日本国内で大きな社会現象となったのは2023年のFIBAバスケットボールワールドカップである。テレビ朝日と日本テレビは大会の放映権を取得し、予選段階から地上波で代表戦を届ける体制を整えていた(FIBA, 2022)。そして本大会で日本代表が歴史的な結果を残したことで、スポーツニュースだけでなく一般ニュース、新聞、情報番組、SNSへと露出が拡大した。

重要なのは、日本代表の成功が「バスケットボール」という競技全体への関心だけでなく、「誰が活躍したのか」という選手個人への関心を同時に生んだことである。B.LEAGUEが2023年6月と10月を比較した調査では、河村勇輝の認知率は6.5%から17.2%へ、富樫勇樹は15.8%から25.1%へ上昇した。田臥勇太も20.9%から26.3%へ上昇している(B.LEAGUE, 2024a)。代表チームへの関心が、所属クラブの選手情報へと接続されたことを示す数字である。

さらに2023-24シーズン開幕節では、キー局とNHKを合わせたテレビ露出が前年比178%、WEBニュース露出が115%となった。公式WEBのユーザー数は前年比155%、新規ユーザー数は179%に達し、河村、富樫、比江島慎といったワールドカップで注目された選手のページ閲覧も大幅に増加した(B.LEAGUE, 2023a)。ここで注目すべきは、代表戦の成功が抽象的な「バスケ人気」で終わらず、選手名の検索や所属クラブへのアクセスという具体的行動に変換された点である。

3.「代表を見る人」から「Bリーグを見る人」への転換

国際大会で一時的に盛り上がっても、国内リーグの観客が増えなければ競技産業の成長には結び付かない。しかし2023年の日本バスケットボールでは、この転換が実際に起きた。B.LEAGUEは2023-24シーズン前半の時点で、総入場者数が過去最多ペースとなり、B.LEAGUE会員が大幅に増加し、クラブファンクラブ会員も前年比137.5%まで伸びたと発表している(B.LEAGUE, 2024a)。2023-24シーズン終了時の総入場者数は4,515,851人となり、リーグ開幕以来最多を更新した(B.LEAGUE, 2024b)。

Bリーグ側もこの現象をワールドカップ効果と明確に認識している。2023年9月から12月の公式サイト利用者数は前年同期比1.53倍、ページビューは1.79倍となり、公式サイトからチケットサイトへの送客は3.2倍に増加した。特にアクセス増加が目立ったクラブには、ホーキンソン、河村、馬場雄大、比江島といった代表選手が所属していた(B.LEAGUE, 2024c)。これは「日本代表を見て興味を持つ→選手を知る→所属クラブを調べる→チケットを購入する」という流れが生じたことを強く示唆する。

一方で島田慎二チェアマンは、入場者増加をワールドカップだけの効果とはしていない。各クラブがB.革新を前に集客やアリーナ体験へ投資してきたところに、ワールドカップという追い風が吹いたと説明している(B.LEAGUE, 2024c)。この指摘は京都ハンナリーズを分析するうえでも重要である。外部環境として全国的なバスケ熱が高まっても、それを地域の観戦行動に変換するにはクラブ側の経営努力が必要だからである。

4.京都ハンナリーズに現れた「ワールドカップ後」の成長

京都ハンナリーズの数字を見ると、全国的なバスケ熱とクラブ独自の経営改革が重なったことが分かる。2022-23シーズンの平均来場者数は2,704人だったが、2023-24シーズンには4,354人となり、前年比161%に増加した。入場者収入も128,096千円から198,143千円へ増加した。売上高は約10.58億円から約14.06億円へ拡大し、パートナー企業数も320社に達した(京都ハンナリーズ, 2024a)。

ただし、この増加をすべてワールドカップの因果効果とみなすことはできない。京都ハンナリーズではその前の2022-23シーズンにも、平均来場者数が1,230人から2,704人へ増えていた(京都ハンナリーズ, 2023)。クラブはB.PREMIER参入条件である平均4,000人を強く意識し、営業、広告、パートナー開拓、アリーナ体験の改善へ積極的に投資していた。したがって2023-24の急伸は、「クラブが準備していた成長基盤」に「ワールドカップによる全国的認知上昇」が重なった結果と解釈するのが妥当である。

この点はスポーツマーケティング上重要である。メディア露出によって競技への関心が高まったとき、消費者は必ずしもその地域のクラブを自動的に応援するわけではない。クラブ側が、チケットを買いやすくする、初観戦でも楽しめる演出を作る、家族や若年層が参加しやすい環境を整える、SNSで選手の人格や日常を見せる、といった接点を用意して初めて関心が来場へ転換される。京都の平均来場者4,000人突破は、全国的な「バスケ熱」を地域の消費行動に転換した事例として評価できる。

5.なぜBリーグでは「選手個人」が推しになりやすいのか

Bリーグのファン文化を考えるうえで、野球やサッカーとの違いとして注目できるのが選手個人の可視性である。バスケットボールはコートが比較的小さく、観客席と選手の距離も近い。試合中にコートに立つ人数は1チーム5人であり、交代を含めても一試合で中心となる選手数は限られる。そのため初観戦者でも選手の顔、背番号、プレースタイルを認識しやすい。得点、アシスト、リバウンドなどの個人成績も試合中に繰り返し提示される。競技構造そのものが「チームの中の個人」を見つけやすいのである。

さらにBリーグは、試合をスポーツ競技だけでなくライブ型エンターテインメントとして設計している。音楽、照明、MC、チア、選手紹介映像などが組み合わされ、選手は競技者であると同時に観客体験の中心人物として演出される。B.LEAGUE自身が「推し選手診断」を提供し、「応援したい選手やクラブ」を見つけることを観戦の楽しみ方として提示していることも象徴的である(B.LEAGUE, n.d.)。リーグ運営側も「推し」という言葉をファン獲得の文脈で積極的に用いている。

この構造はアイドルの推し活と共通点を持つ。アイドルファンは、グループ全体を好みながら、その中の特定メンバーを強く支持することがある。Bリーグでもクラブを応援しながら特定選手のユニフォームを着用し、その選手のSNSを追い、グッズを購入するという行動が成立する。重要なのは、応援対象が「クラブか選手か」の二者択一ではないことである。「京都ハンナリーズが好きで、その中でも特定選手を推す」という重層的なファン関係が形成される。

6.女性・若年層の増加と「推し活」の親和性

Bリーグの観客構成は、この推し活仮説を考えるうえで興味深い。2024-25シーズンのB.LEAGUE会員入場者では女性が52.4%、男性が46.2%で、女性が過半数を占めた。年齢構成では23-29歳が13.6%、30代が22.3%、40代が29.3%であり、幅広い世代が来場している。また新規来場者は27%、リピーターは73%だった(B.LEAGUE, 2025a)。

2023年ワールドカップ直後の調査でも、10代・20代女性のBリーグ観戦意向は2023年6月から7.2ポイント上昇し20.8%となり、調査カテゴリーの中で最も高い水準となった(B.LEAGUE, 2024a)。この数字だけから女性ファンがすべて「選手推し」であると結論付けることはできない。しかし、代表戦によって選手個人の認知が高まった時期と、若年女性の観戦意向が上昇した時期が重なっていることは重要である。

SNS時代の推し活では、試合の勝敗以外にも応援を継続する理由が存在する。選手のファッション、練習風景、人柄、チームメートとの関係、地域活動などが日常的に発信されるためである。従来のスポーツファンが新聞やテレビを介して選手情報を得ていたのに対し、現在のファンは選手本人のSNSを直接フォローできる。この直接性は、ファンに選手を身近に感じさせ、試合がない日にも関係を維持する。バスケットボールの物理的な「距離の近さ」とSNS上の「心理的な距離の近さ」が組み合わさることで、個人への愛着が形成されやすくなると考えられる。

7.短い契約期間と移籍が「クラブを越える推し」を生む

Bリーグにおける推し活を特徴付けるもう一つの要因が選手の流動性である。B.LEAGUEの選手契約ルールでは、契約年数は単年から最長3年までとされ、契約満了後は現所属クラブに保有権がなく、選手は自由に移籍先を選択できる(B.LEAGUE, 2016)。この制度は選手の職業選択や戦力均衡の観点で合理性を持つ一方、ファンにとっては「推していた選手が翌季には別のクラブにいる」という状況を日常化させる。

京都ハンナリーズでも具体例は多い。マシュー・ライトは2022-23、2023-24の2シーズンを京都でプレーした後、契約満了に伴い川崎ブレイブサンダースへ移籍した(京都ハンナリーズ, 2024b)。水野幹太も複数クラブを経験して京都へ加入し、その後川崎へ移籍したのち2026-27シーズンには京都へ戻っている。澁田怜音も岩手、佐賀、滋賀、新潟を経て京都へ加入している(京都ハンナリーズ, 2025a; 2026)。このようなキャリアの流動性はBリーグでは珍しいものではない。

選手個人を強く推すファンにとって、移籍は応援の終了を意味しない。むしろ新しい所属クラブの試合を見る、新クラブのSNSをフォローする、アウェーゲームへ遠征するという行動につながり得る。このときファンの消費はクラブ単位ではなく「選手を軸としたネットワーク型」に変化する。アイドルグループのメンバーが卒業後も個人活動を追うファン行動との類似性はここにある。

さらに2026年以降のB.PREMIERでは選手流動性をより高める制度が設計され、短期契約や期限付移籍の柔軟化も導入されている(B.LEAGUE, 2026)。この方向性が進めば、クラブ側には「選手が入れ替わっても残るクラブへの愛着」を形成する必要性が一段と高まる。

8.プロ野球・サッカーとの違いをどう考えるべきか

ここで注意すべきなのは、「野球やサッカーはチーム推し、バスケットボールは選手推し」と単純に二分しないことである。大谷翔平のように所属球団を越えて支持される野球選手も存在し、サッカーでも国内外の移籍に伴って選手を追うファンは多い。したがって個人推しそのものはバスケットボール固有ではない。

違いとして考えられるのは、その発生頻度と観戦体験に占める個人の比重である。野球は一軍登録人数が多く、守備位置によって選手同士の距離も広い。サッカーは11人でプレーし、スタジアムも大規模である。それに対してバスケットボールは5人制で、コートサイドでは選手の表情や声まで感じられる場合がある。スター選手がボールに触れる回数も多く、攻守双方で試合に関与する。観客が「この選手を見に来た」という体験を得やすい構造である。

また、日本のプロ野球には地域に根付いた長い球団史があり、親から子へ応援球団が継承される文化も強い。Jリーグも1993年の開幕以来、ホームタウンを中心とした地域密着を制度理念としてきた。Bリーグは2016年開幕と歴史が比較的浅く、現在まさにファン文化を形成している段階にある。そのため既存のチーム帰属だけではなく、SNSや代表戦を入口とする新しい個人中心のファン形成が相対的に表面化しやすいと考えられる。これは優劣ではなく、リーグの歴史、競技構造、メディア環境の違いである。

9.京都ハンナリーズにおける「選手推し」と「地域推し」の接続

京都ハンナリーズにとって最も重要な経営課題は、選手個人をきっかけに来場したファンを、京都という地域とクラブへの継続的な支持へどう転換するかである。選手は移籍するが、クラブと地域は残る。したがって選手個人の魅力を否定するのではなく、それを入口としてクラブ全体の価値を経験させる必要がある。

京都はこの点で一定の成果を上げている。2023-24シーズンに平均来場者数4,000人を突破した後、2024-25シーズンも平均4,000人超を維持した。リーグ公式データでは2024-25の京都の平均入場者数は4,187人であり、クラブは「2年連続の平均4,000人超」を達成したと総括している(B.LEAGUE, 2025a; 京都ハンナリーズ, 2025b)。一時的なワールドカップ効果だけなら翌年に大きく反落しても不思議ではないが、一定水準を維持したことは、新規観客の一部がクラブのリピーターへ転換した可能性を示す。

また京都は、地域貢献、学校へのバスケットボール寄贈、子どもの招待、行政や企業との連携などを継続している。こうした活動は、選手個人とは異なる「京都ハンナリーズという組織を応援する理由」を作る。好きな選手が移籍しても、「京都の子どもを支援しているクラブ」「京都の街を盛り上げるクラブ」という意味が残れば、ファンはクラブとの関係を維持しやすい。選手推しからクラブ推し、さらに地域推しへと支持対象を重層化させることが、地域クラブの持続性につながる。

10.「推し活」はクラブ経営に何をもたらすのか

推し活はクラブに複数の経済効果をもたらす。第一にチケット購入である。特定選手を見たいという動機は来場理由として分かりやすく、初観戦の障壁を下げる。第二にグッズ販売である。背番号入りユニフォーム、タオル、写真、選手別商品など、個人への愛着は商品購入と結び付きやすい。第三にSNS上の拡散である。ファンが選手の写真やプレー動画を共有することで、クラブが広告費を支払わなくても認知が拡大する。第四に遠征需要である。推し選手を追ってアウェー会場へ行く行動は、交通、宿泊、飲食を伴い、スポーツツーリズムにもつながる。

京都ハンナリーズの決算でも、2023-24シーズンには入場料だけでなく、グッズ、ファンクラブ、スクール・ユース事業の収入が伸長した。2024-25シーズンには売上高が14.8億円となり、入場者収入は前期比で84百万円増加した。クラブはチケット有料率の向上と観戦体験改善が寄与したと説明している(京都ハンナリーズ, 2025c)。これはファン数の増加だけでなく、一人のファンとの関係を深めることが事業成長に重要であることを示す。

一方、個人推しへの依存にはリスクもある。人気選手が移籍すれば、ファンが新クラブへ移る可能性がある。怪我や引退によって接点が失われることもある。そのためクラブは、個人の人気を活用しながら、アリーナそのものの楽しさ、チームの物語、地域活動、マスコット、チア、ファン同士の共同体など複数の愛着対象を育てる必要がある。ファンの入口は選手個人であっても、出口を「クラブ全体への愛着」に設計することが重要である。

11.京都という都市における新しいスポーツ文化の可能性

京都は寺社仏閣、伝統文化、大学、観光という強い都市イメージを持つ一方、プロスポーツでは京都サンガF.C.なども活動している。その中で京都ハンナリーズが存在感を高めるためには、単に「強いバスケットボールチーム」を目指すだけでは十分ではない。若年層や女性、家族連れ、これまでスポーツ観戦を習慣としてこなかった層に対して、アリーナを新しい余暇空間として提示することが重要になる。

Bリーグの特徴である音楽、照明、近距離での観戦、選手との心理的距離の近さは、伝統的なスポーツファン以外を取り込むうえで強みになる。そして「推し」という考え方は、その入口として機能する。最初は一人の選手を見に来た観客が、試合の面白さを知り、別の選手を知り、チームを知り、地域活動を知り、最終的には京都ハンナリーズそのものを応援する。この段階的な関係形成が成立すれば、推し活は一過性の流行ではなく地域スポーツ文化を拡大する仕組みとなる。

2028年には京都で新アリーナの開業が予定されている。大規模なアリーナを継続的に満員にするには、従来型のコアなスポーツファンだけでは母数が不足する可能性がある。代表戦を見てバスケを知った人、SNSで選手を知った人、友人の推し活に同行した人、地域イベントでクラブを知った人など、多様な入口を用意する必要がある。京都ハンナリーズの2023年以降の成長は、そのモデルを先行して示していると考えられる。

12.考察――「競技人気」から「人物人気」、そして「地域文化」へ

以上の事例から、2023年以降の日本バスケットボールの成長は三段階で理解できる。第一段階は「競技の認知」である。ワールドカップで日本代表が結果を残し、地上波テレビ、新聞、WEBニュース、SNSでバスケットボールへの接触量が急増した。第二段階は「人物の認知」である。河村、富樫、比江島、ホーキンソンなどの選手が広く知られ、ファンは代表戦後も個人名を手掛かりに情報探索を続けた。第三段階が「国内リーグ・地域クラブへの転換」である。選手の所属クラブを調べ、チケットを購入し、アリーナへ足を運ぶ行動が生まれた。

京都ハンナリーズは、代表選手を多数抱えていたクラブとは異なる。それでもワールドカップ後のバスケ市場全体の拡大を受け、平均来場者数を大きく伸ばした。この点が事例として興味深い。つまり代表戦効果は代表選手所属クラブだけに限定されず、「バスケットボールを生で見たい」という需要を全国の地域クラブへ波及させたと考えられる。ただし京都の場合、B.PREMIER参入を目指した集客投資がすでに進行していたため、全国的な追い風を効率よく取り込めた。

そして今後の焦点は、推し活による「人物人気」をいかに「地域文化」へ転換するかである。選手の移籍が多いリーグでは、選手個人だけに依存する顧客基盤は不安定である。しかし逆に言えば、移籍が多いからこそファンは複数クラブを見るようになり、リーグ全体への関心が広がる可能性もある。選手を追って他地域へ行く、以前所属していたクラブにも愛着が残る、対戦時に再会を楽しむといった行動は、リーグ内の人的ネットワークをファン自身が共有することにつながる。これはフランチャイズ単位の閉じた応援とは異なる、Bリーグらしい文化になり得る。

13.結論

2023年のFIBAバスケットボールワールドカップは、日本のバスケットボールにとって大きな転換点だった。日本代表の成功は地上波テレビやWEB、新聞、SNSで大きく扱われ、競技の認知だけでなく選手個人の認知を急速に高めた。その熱量はBリーグへ波及し、2023-24シーズンの総入場者数は過去最多となった。翌2024-25シーズンにはさらに4,845,109人へ増え、ワールドカップ後の関心が一過性ではなかったことが確認できる(B.LEAGUE, 2025b)。

この成長を理解するうえで、「推し活」は重要な視点である。バスケットボールは少人数で選手を識別しやすく、観客との距離が近く、SNSとの親和性も高い。さらにBリーグでは単年から3年までの契約と契約満了後の自由な移籍が制度化されているため、選手個人を応援するファンがクラブの境界を越えて移動しやすい。これはアイドルの推し活と一定の共通性を持つ。

しかし、プロ野球やサッカーとの違いを過度に強調するべきではない。どの競技にも個人ファンとチームファンは存在する。Bリーグの特徴は、リーグの歴史が若く、選手の可視性が高く、移籍が多く、SNS時代に成長しているため、個人への愛着がファン獲得の入口として特に見えやすいことにある。

京都ハンナリーズの事例は、この全国的変化を地域クラブがどのように成長へ変換できるかを示している。2023-24シーズンには平均来場者数が2,704人から4,354人へ増加し、翌季も4,000人以上を維持した。重要なのは、クラブが選手人気だけに依存せず、アリーナ体験、地域貢献、企業・行政との連携を通じて「京都ハンナリーズを応援する理由」を増やしてきたことである。

今後、Bリーグがさらに成長するためには、「推し選手がいるから観に行く」という個人的動機を尊重しながら、「このクラブがあるから地域が面白い」「このアリーナに行きたい」という持続的な地域価値へ転換することが必要である。選手は移籍しても、ファンの体験と地域の記憶は残る。ワールドカップが生み出したバスケ熱を一時的なブームで終わらせず、人物への関心からクラブへの愛着、さらに地域文化へと発展させられるか。それが京都ハンナリーズを含むBリーグ各クラブの次の課題である。

参考文献

B.LEAGUE(2016)「選手契約ルール」B.LEAGUE公式サイト。

B.LEAGUE(2023a)「Bリーグが開幕節の数字を発表―“ワールドカップ効果”でB1平均入場者数4650名、満員18試合」2023年10月10日。

B.LEAGUE(2024a)「B.LEAGUE 2023-24シーズン前半終了時点でのマーケティングデータを公開」2024年1月26日。

B.LEAGUE(2024b)「B.LEAGUE 2023-24シーズン終了のご報告」2024年5月28日。

B.LEAGUE(2024c)「人気上昇のBリーグが昨夏以降の数字を開示」2024年1月。

B.LEAGUE(2025a)「データで見るB.LEAGUE 2024-25 SEASON」B.LEAGUE公式サイト。

B.LEAGUE(2025b)「りそなグループ B.LEAGUE 2024-25シーズン終了のご報告」2025年5月。

B.LEAGUE(2026)「選手登録制度|B.革新」B.LEAGUE公式サイト。

B.LEAGUE(n.d.)「推し選手診断」B.LEAGUE公式サイト。

FIBA(2022)“TV Asahi, Nippon TV strike deals to broadcast World Cup games in Japan.”

FIBA(2023a)“Japan clinch berth to Paris 2024 as best-placed team from Asia.”

FIBA(2023b)“Record-breaking engagement at the most followed FIBA Basketball World Cup ever.”

京都ハンナリーズ(2023)「B.LEAGUE 2022-23シーズン(2022年度)クラブ決算概要発表のお知らせ」。

京都ハンナリーズ(2024a)「B.LEAGUE 2023-24シーズン(2023年度)クラブ決算概要発表のお知らせ」。

京都ハンナリーズ(2024b)「マシュー・ライト選手 移籍のお知らせ」。

京都ハンナリーズ(2025a)「2025-26シーズン 7.1付けロスター&背番号」。

京都ハンナリーズ(2025b)「2024-25シーズン終了のご挨拶」。

京都ハンナリーズ(2025c)「B.LEAGUE 2024-25シーズン(2024年度)クラブ決算概要発表のお知らせ」。

京都ハンナリーズ(2026)「2026-27シーズン ロスター確定」。

「Bリーグ観戦者の消費行動を予測する多重要因モデル:観戦動機,チーム・アイデンティフィケーション,ゲーム魅力,施設要因」『スポーツ産業学研究』35巻1号, 2024。

主要参照URL(最終閲覧日:2026年10月4日)

https://www.bleague.jp/news_detail/id=16574

https://www.bleague.jp/basketlive_news_detail/id=357382

https://www.bleague.jp/news_detail/id=428910

https://www.bleague.jp/indata/

https://www.bleague.jp/new-bleague/system/player-entry/

https://www.fiba.basketball/en/news/basketballworldcup-2023-news-japan-clinch-berth-to-paris-2024-as-best-placed-team-from-asia

https://www.fiba.basketball/en/news/basketballworldcup-2023-news-record-breaking-engagement-at-the-most-followed-fiba-basketball-world-cup-ever

https://hannaryz.jp/news/detail/id=21104

https://hannaryz.jp/news/detail/id=21767

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sposun/35/1/35_1_45/_article/-char/ja/

引用表記

片岡亮(2026)「Bリーグの成長と「推し活」文化の形成―FIBAワールドカップ2023後の認知拡大と京都ハンナリーズを事例とした考察―」一般社団法人京阪マーケティング・リサーチ機構 研究レポート.https://www.keihan.or.jp/research/reports/bleague-oshikatsu/

研究レポートの一覧へ